リーマン・ショックの頃です。
会社もうまくいかず、家庭もうまくいっていませんでした。もっと正直に書けば、誰のせいにもできず、誰にも頼れない状況でした。
根本的に自分を変える以外に、前に進むどころか、存続すら危うい。そこまで来てようやく、腰を上げました。
そのとき私が決めたのは、「何をやるか」ではありませんでした。
何を捨てるかです。
軸とか価値観という言葉を聞くと、何かを見つけ出す作業のように思えます。私もそう思っていました。でも実際に起きたのは逆でした。削っていったら、残ったものがあった。それが私の軸でした。
誰のせいにもできず、誰にも頼れなかった
それまでの私は、うまくいかない理由を外側に置いていました。景気が悪い。上が分かっていない。相手が変わってくれない。
でもあの時期は、その置き場所が全部なくなりました。
会社の問題を家庭のせいにはできない。家庭の問題を会社のせいにもできない。そして、どちらについても助けてくれる人がいない。逃げ場がないというのは、こういうことかと思いました。
ただ、いま振り返ると、あの状態には一つだけ良いところがありました。
言い訳がすべて消えると、自分を変えるしかなくなります。順番として、追い込まれるのが先で、覚悟が後でした。立派な決意から始まったわけではありません。
私が捨てた、3つのもの
やることを増やす余裕はありませんでした。だから減らしました。捨てたのは、次の3つです。
1. 不得意で、しかもやりたくない仕事
ここは2つ揃っているものだけを切りました。
不得意だけれどやりたいことは残します。伸びる余地がありますし、続けられます。得意だけれどやりたくないことも、状況によっては引き受けます。人より早く終わるからです。
でも不得意で、しかもやりたくないものには、続ける理由が一つもありません。時間もかかるし、気も重い。それでも長年抱えていたのは、単に手放す発想がなかったからでした。
2. お互いに不幸になる方向にしか進まない関係
これは「嫌いな人」という意味ではありません。
悪い人でもないし、こちらが我慢しているわけでもない。ただ、その組み合わせで進む先に、お互いにとって良い場所がない。一緒にいると、なぜか両方が消耗していく。そういう関係があります。
これに気づいてから、少し楽になりました。相手を悪者にしなくても、離れていいと分かったからです。相性の問題だと考えれば、恨みも罪悪感も残りません。
3. 攻撃的な人
ここだけは、条件なしで距離を取りました。
攻撃的な人と一緒にいると、こちらの判断が少しずつ変わっていきます。怒らせないことが目的になり、正しいかどうかで決められなくなる。軸を持ちたいなら、まず軸を折りにくる人から離れることです。
なお、そういう振る舞いが何を意味しているかは、別の記事で詳しく書いています。
捨てる基準は、ひとつだけでした
3つ挙げましたが、判断の基準そのものは一つです。
自分の心が疲弊することは、しない。
「嫌なこと」ではなく「疲弊すること」にしたのには理由があります。
嫌なことは、世の中にいくらでもあります。そのほとんどは、終わればなくなります。歯医者も、苦手な人への電話も、終われば元に戻る。
でも疲弊は、終わっても残ります。翌朝まで持ち越し、翌週も少し残り、気づくと目盛りが下がったままになっている。減った分は、勝手には戻りません。
40代・50代になると、この差がはっきり出てきます。20代なら一晩眠れば戻ったものが、戻らなくなる。だから若い頃と同じ基準では、もう回らないのです。
ただし「めんどくさい」は、頭の辞書から消しました
ここが一番大事なところだと思っています。
「心が疲弊することはしない」とだけ言うと、都合よく使えてしまいます。気が乗らないものを全部「疲れるから」で切っていけば、ただの怠惰です。
そこで私は、「めんどくさい」という言葉を、頭の辞書から消しました。捨てる理由に使わないと決めたのです。
面倒と疲弊は、まったく別のものだからです。
| めんどくさい | 疲弊する | |
|---|---|---|
| どこの話か | 体と手間の話 | 心の話 |
| やったあと | だいたい軽くなる | さらに重くなる |
| 時間が経つと | 終われば消える | 残って積もる |
| 判断 | やる | やらない |
掃除も、書類も、久しぶりの連絡も、たいてい面倒です。でもやったあとに軽くなるものは、疲弊ではありません。むしろ手をつけずに放置しているあいだのほうが、ずっと重い。
この2つを混同すると、片方は怠惰になり、もう片方は我慢になります。面倒だからやる。疲弊するからやらない。この順番で決めるようにしました。
削っていったら、4つ残りました
そうやって減らしていった結果、手元に残ったものが4つありました。
いま私がこのブログで扱っているのは、その4つです。並べ方にも意味があります。
- メンタルと体つくり……生きていくうえでのベース。ここが崩れると、他は何も積めない
- 出会い(人間関係)……人生を豊かにするもの。土台の上に乗る
- 経済力……前の3つをスムーズにするための潤滑油
この順番が、そのまま私の軸です。
お金を一番下に置いていないのは、意地ではありません。心と体が壊れていたら、お金があっても使い道がないからです。逆に、心と体と人間関係が揃っていれば、お金が少なくても回ります。ただし、少なすぎると全部がぎくしゃくする。だから潤滑油です。
迷ったときは、この順番に照らします。ベースを削って上を取る選択は、しない。それだけで、かなりの数の判断が自動的に決まります。
軸は、探して見つかるものではありませんでした
正直に書きます。
「自分の価値観を書き出してみましょう」といったやり方を、私も試したことがあります。ですが、それでは何も出てきませんでした。紙の上でいくら考えても、きれいな言葉が並ぶだけで、翌日には忘れています。
私の場合に効いたのは、実際に手放したことでした。
やりたくない仕事を断ってみる。消耗する関係から離れてみる。攻撃的な人と距離を取ってみる。そうして減っていったあとに残ったものが、自分にとって手放せないものだった。順番が逆だったのです。
ただ、私は追い込まれてからでした。そこまで待つ必要はありません。小さく捨てるところからでも、同じことは起こります。
今日からできる、3つのこと
1. 今週、心がすり減ったことを1つ書き出す
大きなものでなくてかまいません。思い出すと少し気が重くなるものを、ひとつだけ。
2. それが「面倒」か「疲弊」かを分ける
判定は簡単です。やり終えたあと、軽くなるかどうか。軽くなるなら面倒、重いままなら疲弊です。
3. 疲弊のほうだけ、減らす方法を考える
すぐにやめられなくてかまいません。回数を減らす、時間を短くする、間に人を挟む。ゼロにしなくても、目盛りの減り方は変わります。
そして面倒なほうは、そのままやってください。そこを削ると、軸ではなく生活が崩れます。
まとめ|軸とは、捨てたものの記録である
この記事の要点をまとめます。
- リーマン・ショックの頃、誰のせいにもできず誰にも頼れなくなって、ようやく動いた
- 捨てたのは①不得意でやりたくない仕事 ②お互いに不幸になる関係 ③攻撃的な人
- 基準はひとつ。自分の心が疲弊することはしない
- ただし「めんどくさい」は捨てる理由に使わない。面倒はやったら軽くなる、疲弊は残って積もる
- 残ったのは4つ。メンタルと体つくりがベース、人間関係が豊かさ、経済力が潤滑油
軸を持てと言われると、何かを新しく手に入れる話に聞こえます。でも私の場合、増えたものは何もありませんでした。
軸とは、何を選ぶかではなく、何を捨てたかの記録でした。
だから、まだ軸がないと感じるなら、それは足りないのではありません。まだ、何も捨てていないだけです。




