好奇心は、記憶の入口を開ける|40代・50代が新しいことを覚えるコツ

本棚に囲まれた明るい書店のカフェで、本を開いて楽しそうに笑う50代の日本人男性

この2〜3年で、私にできるようになったことが3つあります。

  • ホームページを作れるようになった(それどころか、Amazonへの出品まで)
  • 観葉植物の樹形を考えて、剪定できるようになった
  • 栄養バランスを考え、見た目まで整えて料理を出せるようになった

並べてみて、自分でも少し驚いたことがあります。この3つとも、「学ぼう」と思って始めたものが一つもないのです。

参考書を買っていません。講座も受けていません。それなのに、気づいたらできるようになっていた。この記事は、その「気づいたら」の正体についての話です。

目次

まず、この記事の書きすぎを訂正します

以前このページには、こう書いていました。

「好奇心が強い人はドーパミンの分泌量が多く、実年齢より10歳若く見えるという結果が報告されている(Gruber et al., 2014, Neuron)」。

論文を確認しました。そんなことは、どこにも書かれていませんでした。訂正します。

実際の論文は「好奇心の状態が、海馬に依存する学習をドーパミン系の回路を介して調整する」という趣旨のものです。調べているのは記憶であって、見た目でも年齢でもありません。「10歳若返る」は、私が話を盛った結果です。

ついでに、記事にあった「記憶定着率が最大30%上がる」という数字も出典が確認できませんでしたので、これも削除します。

好奇心が変えるのは、見た目ではない。記憶の入り方だ。

論文が本当に示していたこと

訂正ついでに書きますが、この論文の本当の中身のほうが、私たちには役に立ちます。

実験では、参加者に雑学の質問を見せて「どれくらい答えを知りたいか」を評価してもらいました。そのうえで記憶を測ると、こうなりました。

  • 強く知りたいと思った質問の答えは、よく覚えていた(これは想像がつきます)
  • その状態のときに一緒に見せられた、まったく無関係な情報まで、よく覚えていた

2つ目が重要です。本来なら忘れてしまうはずの情報が、好奇心の状態に巻き込まれて記憶に残った。研究者はこれを、忘却から「救い出された」と表現しています。

つまり好奇心は、対象そのものだけでなく、その周りにあるものまで一緒に持って帰ってくるということです。

思い当たることが、3つあった

これを読んだとき、冒頭の3つが腑に落ちました。順に書きます。

AIを使い始めたら、作れるものが増えた

私はもともと、ホームページを作れる人間ではありませんでした。プログラミングの勉強をしたこともありません。

ところがAIを触るのが面白くなって、あれこれ試しているうちに、気づいたらホームページが作れるようになっていました。そのうちAmazonへの出品まで自分でできるようになった。発信を始める話を別記事に書きましたが、あれも同じ流れの中にあります。

「Web制作を学ぼう」と思った瞬間は、一度もありませんでした。面白いものを触っていたら、周辺の技術がくっついてきただけです。

部屋を整えていたら、剪定ができるようになった

観葉植物を置いた話も、始まりは部屋づくりでした。緑があると部屋が良くなる、それだけの動機です。

ところが育てているうちに面白くなり、今では樹形を考えて剪定ができるようになりました。どの枝を落とせば全体が美しくなるか、を考えている。園芸を習ったわけではありません。

外食に飽きたら、栄養と盛り付けまで身についた

料理を始めたきっかけは、外食に飽きたからでした。健康のためでも節約のためでもありません。

それが続いていくうちに、栄養バランスを考えるようになり、味だけでなく見た目まで整えるようになりました。栄養学の本を読んだからではありません。作るのが面白くなった結果、その周辺が全部ついてきた。

3つとも、構造がまったく同じです。何かに興味を持った。その周りにあったものが、勝手に身についた。

逆に言えば、興味のないことは覚えられない

ここから、実用的な話になります。

40代・50代になると「学び直し」という言葉が視界に入ってきます。資格を取ろう、英語をやり直そう、と考える。そして、たいてい続きません。私も何度も失敗しました。

理由は意志の弱さではないと思っています。順番が逆なのです。

「役に立ちそうだから覚える」は、興味のない状態から記憶に押し込もうとする作業です。研究が示していたのはその逆で、知りたいという状態が先にあると、記憶のほうが開く。入口が開いていないところに、押し込もうとしても入りません。

だから私は今、「何を学ぶべきか」ではなく「何が面白いか」から入るようにしています。遠回りに見えますが、続かないものに時間を使うより、はるかに早い。

「もう知ってる」と言った瞬間に、止まる

そして、40代・50代にはひとつ大きな敵がいます。経験です。

長くやっていると、たいていのものが「見たことのある形」に見えてきます。新しい話を聞いても、頭の中で既知のパターンに当てはめて処理してしまう。そして「ああ、それは知ってる」と言う。

これを言った瞬間、その話題についての好奇心は消えます。知りたいという状態が立ち上がらなければ、記憶の入口も開きません。経験が、学ぶ力を塞いでいるという構図です。

私がAIに触れたとき、幸運だったのは「まったく分からなかった」ことでした。知ったかぶりのしようがなかった。昔のスキルは期限切れという記事にも書きましたが、分からない状態は不利ではなく、むしろ入口が開いている状態です。

年齢で、相手を測らない

もうひとつ、意識していることがあります。

私はもともと、年齢を気にしません。その人の特性、特技、考え方、行動を見て、自分より前を走っている人には、誰にでも教えを乞うという姿勢でいます。相手が20代でも同じです。

これは謙虚さの話というより、実利の話です。年下だからと構えた瞬間、その人が持っているものを受け取れなくなる。頭を下げるのが惜しいという理由だけで、学ぶ機会を自分から捨てることになります。

そして実際のところ、40代・50代が新しく学べる領域は、たいてい若い人のほうが先に走っています。年齢で相手を測る癖は、いちばん学べる相手を排除する癖でもあります。

教えを乞える相手の数が、そのまま学べる量になる。年齢で絞れば、その数が減るだけだ。

今日からできる、3つのこと

「もう知ってる」と言いかけたら、飲み込む。そのうえで質問をひとつしてみてください。知っているつもりの話の中に、知らない部分は必ずあります。入口を自分で閉じないことが、いちばん安上がりな対策です。

「学ぶべきこと」ではなく「面白いこと」を、ひとつ選ぶ。役に立つかどうかは、いったん脇に置いてください。面白がって続いたものは、周辺ごと身につきます。役に立たせるのは、そのあとでも間に合います。

年下に、ひとつ教わる。職場でも、家族でも構いません。自分より先を走っている部分を見つけて、素直に聞く。それだけで、受け取れるものの量が変わります。

まとめ

この記事はもともと「好奇心で10歳若返る」という話でした。その根拠として挙げていた論文に、そんなことは書かれていません。訂正しました。

ただ、論文の本当の中身のほうが、はるかに実用的でした。知りたいと思っている状態のとき、人はその周りにあるものまで一緒に覚えてしまう。

私がホームページを作れるようになり、剪定ができるようになり、盛り付けを考えるようになったのは、努力の成果ではありません。面白がっていたら、周辺がついてきただけです。そしてそれは、40代でも50代でも起こります。

若く見えるかどうかは分かりません。でも、できることは確実に増えました。それで十分だと思っています。

覚えようとしたことは、覚えられない。知りたいと思ったことは、周りごと覚えている。

あわせて読みたい

目次