「発展途上国からの買出人みたい」
私の服装が、陰でそう言われていたことがあります。本人に向かって言う人はいませんから、知ったのはずいぶんあとでした。
今は、初対面の方から「すっとした、おしゃれな人ですね」と言われることがあります。
変えたのは服です。ただし、最初にやったのは、服にお金をかけることではありませんでした。むしろ順番を間違えていたあいだは、値段を上げても何も変わらなかった。
この記事では、私が最後にたどり着いた3つの原則を、効いた順番のまま書きます。順番が大事なので、そこだけ守って読んでいただければと思います。
「発展途上国からの買出人」と言われていた頃
当時の私は、服をひどく雑に買っていました。店で見てなんとなく良さそうなら買う。試着はしない。サイズは「たぶんこれくらい」で決める。
一枚一枚は、そこまで変な服ではなかったはずです。問題は組み合わさったときに立ちのぼる空気のほうでした。
そしてこの手の話には、やっかいな性質があります。
誰も、本人には言いません。
髪型が変でも、服がちぐはぐでも、指摘するのは失礼にあたる。だから周りは黙ったまま、こちらは何年でも同じ格好を続けてしまう。私が何年も気づけなかったのは、鈍かったからではなく、情報が入ってこない構造になっていたからです。
裏を返せば、直すのは簡単でした。誰も教えてくれないだけで、直し方自体は難しくなかった。
原則1|柄とロゴを、消す
最初にやったのは、買うことではなくやめることでした。
柄物と、ロゴが目立つもの。この2つをやめました。
理由ははっきりしています。柄やロゴが大きいと、服のほうが主役になるからです。見る人の目は最初に柄へ行き、ロゴへ行く。着ている人間は、その背景になってしまう。
20代なら、それでもかまいません。服が目立っても、本人の勢いが上回るからです。
でも40代・50代で服に主役を渡すと、服に着られている状態になります。「若づくり」と受け取られるのは、たいていこの状態です。年齢が問題なのではなく、主役が入れ替わっているのが問題なのです。
目安はこれくらいで十分です。
- 基本は無地
- 柄を入れるなら、離れて見たとき無地に見える程度まで
- ロゴは、胸の小さなワンポイントまで
- ブランド名が大きく読めるものは、外す
これだけで、印象はかなり静かになります。そして静けさは、そのまま品に見えます。
原則2|サイズは「今の空気」に合わせる
次がサイズです。ここが一番効きました。
ただし、「体にぴったり合っていればいい」という話ではありません。その時々の流行を、少しだけ取り入れたサイズ感を選ぶ。ここが分かれ目でした。
服のサイズ感には、時代の空気があります。細身が主流の年もあれば、ゆったりが主流の年もある。10年前にジャストだったサイズは、今の目には「なんとなく古い」と映ります。本人にはその古さが見えません。自分の目も一緒に10年前で止まっているからです。
かといって、流行にまるごと乗るのも違います。極端なシルエットは、40代・50代の体には不自然に出る。
今の空気を、半歩だけ入れる。これが答えでした。
確認すべき場所は、肩です。ジャケットもシャツも、肩の縫い目が自分の肩先にちょうど乗っているかを見る。ここがずれていると、他がどれだけ良くても決まりません。
なお、古い服をどう処分するかについては、別の記事で詳しく書いています。
原則3|そのうえで、質感を上げる
ここでようやく、お金の話が出てきます。3番目です。
柄とロゴを消し、サイズを合わせた。そのうえで生地の質を一段上げると、同じような形の服なのに、まったく違って見えます。
私が選んでいるのは、この4つのあたりです。
- GLOBAL WORK(グローバルワーク)……価格を抑えつつ、形がきれいなものが見つかる
- URBAN RESEARCH DOORS(アーバンリサーチ ドアーズ)……落ち着いた大人向けで、派手さがない
- green label relaxing(ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング)……きれいめに寄せたいとき
- UNITED TOKYO(ユナイテッドトウキョウ)……今の空気を少し入れたいとき
いわゆるハイブランドは、ひとつも入っていません。手の届く範囲で、生地がしっかりしているもの。それで十分でした。
むしろ大事なのは順番のほうです。原則1と2を飛ばして、3だけやっても垢抜けません。大きなロゴの入った高い服、サイズの合っていない高い服は、値段のぶんだけちぐはぐさが目立ちます。
私が長いあいだ変われなかったのは、この順番を逆から始めていたからでした。
買い方を変えたら、失敗が消えた
3つの原則と同じくらい効いたのが、買い方です。ここを変えてから、着ないまま眠る服がほとんどなくなりました。
なんとなく買うのを、やめる
ハンガーに掛かった状態を見て「良さそうだ」と判断するのをやめました。掛かっている服と、着た服は別物です。
必ず試着して、違和感を探す
試着室では「似合うか」ではなく、「どこかに違和感がないか」を見ます。似合うかどうかは判断が難しいのですが、違和感は自分でも分かります。
肩が浮いていないか。袖が長すぎないか。座ったときに突っ張らないか。ひとつでも引っかかったら買わない。これだけで失敗はかなり減りました。
できれば、目のある女性と一緒に行く
これが一番効きました。ファッションの目がある女性に、一緒に来てもらう。
理由は単純です。自分の目は、いつのまにか自分の好みに固まっています。しかも服は、自分ではなく他人が見るものです。だったら、見る側の目で選んでもらったほうが早い。
これは髪型とまったく同じ構造でした。自分で決めているうちは、20年前の感覚から抜けられません。
言われる言葉が、変わった
この3つを順番どおりにやって、しばらく経った頃です。
「すっとした、おしゃれな人ですね」と言われるようになりました。
正直なところ、中身は何も変わっていません。変えたのは、柄をやめて、サイズを合わせて、生地を一段上げただけ。それだけで、他人が私に貼るラベルが入れ替わりました。
そして、ここからが本題かもしれません。
扱われ方が変わると、こちらの振る舞いも変わります。きちんとした人として扱われれば、自然と背筋が伸びる。丁寧に接してもらえれば、こちらも丁寧に返す。服から始まった変化が、態度にまで回ってきました。
もっとも、服だけを整えても足りません。土台には清潔感があります。
今日からできる、3つのこと
買い物に行く前に、家でできることから始められます。
1. クローゼットから、ロゴが目立つ服を抜く
捨てなくてかまいません。いったん別の場所に移すだけで十分です。残った服だけで組み合わせてみると、自分の手持ちが見えます。
2. 次の1着は、必ず試着してから買う
面倒でも、これだけは飛ばさないことです。試着を1回省くごとに、着ない服が1枚増えます。
3. 一度だけ、誰かに見てもらう
毎回でなくてかまいません。一度、目のある人と買いに行くだけで基準が入れ替わります。そのあとは、その基準で自分で選べるようになります。
まとめ|順番を、間違えないこと
この記事の要点をまとめます。
- 原則1|柄とロゴを消す……服が主役になると、着ている人が背景になる
- 原則2|サイズは今の空気を半歩だけ入れる……肩の縫い目が肩先に乗っているか
- 原則3|そのうえで質感を上げる……ハイブランドはいらない。生地がしっかりしていればいい
- 買い方……なんとなく買わない。必ず試着する。できれば目のある女性と行く
お金をかけるのは、3番目でいいのです。1と2は、今日から無料でできます。
私は長いあいだ、服は自分のために着るものだと思っていました。
でも実際には違いました。服は、相手が最初に読む、一枚の紹介文です。そこに何が書いてあるかは、自分では読めません。だから、読める人に一度見てもらう。それだけのことでした。



