冷めたのは、大きな裏切りではなかった|40代・50代の関係を壊す4つの毒と、その解毒剤

庭に面したダイニングテーブルで、お茶を前に静かに向き合って話し合う50代の日本人夫婦

関係が壊れた理由を聞かれたら、たいていの人は大きな出来事を挙げます。私もそうでした。

私の場合はリーマン・ショックです。会社の業績が一気に悪くなり、給料が大きく下がりました。生活が変わり、空気が変わり、そして関係も変わった。分かりやすい原因です。人にもそう説明していましたし、自分でもそう思っていました。

でも、正確ではありませんでした。

あれは引き金だっただけです。下地は、その何年も前に完成していました。

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大きな出来事は、引き金でしかない

同じ経済的な打撃を受けても、乗り越える夫婦はいます。むしろ結束が強まる家庭さえある。同じ重さのものが乗っても、壊れる土台と壊れない土台があるということです。

うちは、壊れる側の土台でした。給料が下がったから壊れたのではなく、すでに壊れやすくなっていた場所に、重いものが乗っただけです。

厄介なのは、引き金のほうが目立つことです。原因が分かりやすいと、人はそこで納得して考えるのをやめてしまう。「不景気だったから仕方がなかった」で終わらせれば、自分は何も悪くないことになります。私は長いことそうやって説明していました。

分かりやすい原因は、都合のいい原因でもある。

土台を崩していた「4つの毒」

では、何が土台を崩していたのか。心理学者ジョン・ゴットマンが挙げた4つの言動が、まさにそれでした。

  • 批判:「いつも〜だ」「なんで〜しないんだ」と、行動ではなく人格を責める
  • 侮蔑:ため息、舌打ち、見下した言い方。4つのうち最も破壊力が高いとされる
  • 自己弁護:言い訳、責任転嫁、話のすり替え
  • 無視:会話を打ち切る、黙り込む、スマホを見続ける

正直に書きます。いま思えば、私は4つとも全部やっていました。

疲れて帰って、話しかけられても生返事をする。指摘されれば「そっちだって」と返す。正面から向き合うのが面倒で、ため息でやり過ごす。ひとつずつは小さな出来事です。翌日には忘れるような。でも相手は忘れません。

特に自己弁護は、私にとって根の深い癖でした。悪いのは自分ではないという構えは、家庭だけの話ではありません。他責をやめるまでの話を別記事に書きましたが、あの癖がいちばん高くついた場所が、家庭でした。

数字の話を、正確にしておく

この4つは「離婚予測率94%」といった数字とセットで語られることが多く、この記事にも以前そう書いていました。調べ直したので訂正します。

4つの毒の有無だけで予測できる精度は、82%程度とされています。90%台に届くのは、そこに「修復の試みが失敗しているかどうか」を加えたときです。

また、この高い精度自体にも方法論上の批判があります。結果が分かっているデータからモデルを作り、同じデータで検証しているため精度が高く出ている、という指摘です。ですから「94%当たる予言」ではなく、傾向を示した研究として読むのが正確でしょう。

ただ、私にとってはそこが本題ではありませんでした。重要なのは、精度を90%台まで引き上げた要素のほうです。

本当に効くのは、解毒剤のほうだった

ゴットマンの研究でいちばん希望があるのは、実はここです。

4つの毒が多く出ていた新婚カップルでも、修復がうまくいっていた人たちの84%は、6年後も安定した幸せな関係を続けていた。

これは、私にとって救いでもあり、痛みでもありました。

救いというのは、毒を一度も吐かない人間になる必要はないと分かったからです。そんな人はいません。疲れていれば言い方はきつくなるし、余裕がなければため息も出る。問題は、吐くかどうかではなかった。

痛みというのは、私がやっていなかったのは、まさにその修復だったと気づいたからです。毒を吐くことより、吐いたあと何もしなかったことのほうが、はるかに効いていました。

関係を壊すのは、傷をつけることではない。つけた傷を、放置することだ。

修復といっても、特別なことではありません。「言いすぎた」と言う。話を戻す。冗談で空気を変える。手を止めて相手のほうを向く。その場で流れを断ち切る動作のことです。

ひとつだけ条件があります。謝るときに「でも」「だって」を入れないこと。一言でも足した瞬間、それは修復ではなく自己弁護に変わります。私はここを何度も間違えました。

5対1という比率

もうひとつ、覚えておく価値のある数字があります。ゴットマンが示したポジティブ5に対してネガティブ1という比率です。うまくいっている関係では、否定的なやりとり1回に対して、肯定的なやりとりが5回ある。

肯定的といっても、贈り物や記念日の話ではありません。「おはよう」「ありがとう」「助かった」「それ似合うね」。この程度のもので数に入ります。

ただしこれも、正確に書いておきます。この比率は観察から見つかった相関であって、「5倍にすれば必ず良くなる」という因果の証明ではありません。目安として使うにはよくできた数字だ、というくらいの受け止め方が妥当です。

それでも私がこの数字を気に入っているのは、「減らす」より「増やす」ほうが実行しやすいからです。ため息をやめるのは難しい。でも「ありがとう」を1日3回言うのは、今日からできます。

今のパートナーと、やっていること

失敗から学んで変えたことを書きます。特別なことは2つだけです。

問題が出たら、正面から向き合う

問題が起きたとき、感情的にならずに話し合い、妥協点を探す。これだけです。

書くと簡単ですが、以前の私は逆をやっていました。面倒だから黙る。黙ったまま不機嫌でいる。相手に察してもらおうとする。あれは無視という毒で、しかも修復の機会を自分から潰す行為でした。

正面から向き合うには、自分の側が落ち着いている必要があります。自分の機嫌は自分で取るという話を別に書きましたが、あれは自分のためだけの技術ではありませんでした。機嫌の悪い人間は、話し合いができません。

永遠の時間はない、と心得る

もうひとつが、これです。一緒にいられる時間は有限だと、はっきり意識しておく。

若い頃は、明日も明後日も同じ日が来ると思っていました。だから今日の不機嫌を先送りできた。今日ぶつけた言葉を、いつか埋め合わせられると思っていた。その「いつか」は来ませんでした。

一期一会は毎日会う人にこそ効くと別記事に書いたのは、この経験からです。今この瞬間を大事にするというのは、精神論ではありません。取り返しがつかないという事実を、忘れないでいるということです。

今日からできる、3つのこと

今日、言いすぎたと思ったら、その日のうちに戻す。「さっきは言い方が悪かった」の一言で十分です。ただし「でも」「だって」は入れない。入れた瞬間、修復ではなく言い訳になります。

「ありがとう」を1日3回、声に出す。減らすより増やすほうが簡単です。ごはん、洗濯、送り迎え。言わないことは、伝わりません。

話しかけられたら、手を止めて相手を見る。スマホを置くだけで、相手の受け取り方は変わります。解決策を出す必要はありません。聞いている姿勢そのものが、修復の一種です。

まとめ

関係が壊れた理由を、私は長いことリーマン・ショックだと説明してきました。嘘ではありません。ただ、それは引き金の話でした。

土台を崩していたのは、その何年も前から積み上げていた小さな言動です。批判、侮蔑、自己弁護、無視。私は4つとも、全部やっていました。そして何より、吐いた毒を戻す作業を一度もしていなかった。

今から完璧な人間になる必要はありません。研究が示しているのは、毒を吐いても、その場で戻せる関係は続くということです。戻し方を知っているかどうか。差はそこにありました。

大きな出来事は、引き金にすぎない。土台は、毎日の言葉でできている。

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